【連載】「忙しい」が口癖になる瞬間|第4回

― 個人の中にある「安全資産」と「リスク資産」

「一日中忙しかったのに、何も前に進んでいない」

この感覚を持ったことがない人は、ほとんどいないだろう。

朝から晩まで動いていた。

対応もした。連絡も返した。会議にも出た。

それでも、振り返ると、

本当にやりたかったことには手をつけていない。

この状態は、時間管理の失敗ではない。

個人の中で、仕事が“二種類”に分かれていることが原因だ。

個人のタスクには2つの性質がある

個人の行動を分解すると、

多くの場合、次の二つに分類できる。

● 安全資産

  • ルーティン業務
  • 依頼対応
  • 会議・調整
  • 報告・連絡
  • 目に見える忙しさ

これらは、

  • やっていれば怒られない
  • 失敗しにくい
  • 評価が下がりにくい

安全に時間を使える行動だ。

● リスク資産

  • 新しい挑戦
  • 価値を生む行動
  • 学習や試行
  • 判断を伴う実行

こちらは、

  • 正解が分からない
  • 失敗の可能性がある
  • 評価に直結する

前に進むが、心理的に重い行動である。

忙しい一日は「安全資産」で埋まっている

忙しいと言いがちな人の一日は、

ほぼ例外なく、安全資産で埋まっている。

これは逃げではない。

極めて合理的な選択だ。

なぜなら、安全資産は

  • 即時の不安を生まず
  • 周囲からの評価も安定し
  • 自尊心を消耗しない

一方で、リスク資産は

  • 考えるだけで重く
  • 失敗の可能性が常にあり
  • 自己評価を揺さぶる

そのため、

忙しい人ほど、安全資産を優先する。

問題は「どちらが悪いか」ではない

ここで重要なのは、

安全資産が悪いわけではない、という点だ。

組織も個人も、

安全資産なしには回らない。

問題は、

安全資産が一日を完全に占領してしまうこと

である。

その瞬間、

人は忙しいが、前に進まない状態に入る。

なぜリスク資産は後回しにされるのか

リスク資産が後回しになる理由は明確だ。

それは、

「今やらなくても、すぐには困らない」から。

・今日やらなくても、怒られない

・来週でも、問題は表面化しない

・誰かに迷惑がかかるわけでもない

だが皮肉なことに、

リスク資産こそが、

時間が経つほど価値を生む行動でもある。

忙しさは「判断をしないための構造」になる

安全資産で一日を埋めると、

人は判断をしなくて済む。

  • 何をやるかは決まっている
  • 優先順位を考えなくていい
  • 失敗の責任を引き受けなくていい

忙しさは、

決断を回避できる快適な状態を作る。

その結果、

リスク資産は

「また今度」「時間ができたら」に追いやられる。

3割で前に進める人は、ここが違う

3割で前に進める人は、

忙しくないわけではない。

違いは一つだけだ。

安全資産とリスク資産を、意識的に切り分けている。

・今日はリスク資産を10分だけやる

・完成度は問わない

・前に出すことだけを目的にする

この小さな設計が、

忙しさの中でも前進を生む。

第4回のまとめ

一日が前に進まない理由は、

  • 時間が足りないからではない
  • 忙しすぎるからでもない

安全資産が、リスク資産を飲み込んでいるからである。

忙しい状態そのものが問題なのではない。

忙しさの中に、

前に進む行動が一切含まれていないことが問題なのだ。

次回、最終回では、

この「忙しい」を手放すために、

個人は何をどう変えればいいのかをまとめる。

根性論ではなく、

今日から使える「個人の設計」として。

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