― 個人の中にある「安全資産」と「リスク資産」
「一日中忙しかったのに、何も前に進んでいない」
この感覚を持ったことがない人は、ほとんどいないだろう。
朝から晩まで動いていた。
対応もした。連絡も返した。会議にも出た。
それでも、振り返ると、
本当にやりたかったことには手をつけていない。
この状態は、時間管理の失敗ではない。
個人の中で、仕事が“二種類”に分かれていることが原因だ。
個人のタスクには2つの性質がある
個人の行動を分解すると、
多くの場合、次の二つに分類できる。
● 安全資産
- ルーティン業務
- 依頼対応
- 会議・調整
- 報告・連絡
- 目に見える忙しさ
これらは、
- やっていれば怒られない
- 失敗しにくい
- 評価が下がりにくい
安全に時間を使える行動だ。
● リスク資産
- 新しい挑戦
- 価値を生む行動
- 学習や試行
- 判断を伴う実行
こちらは、
- 正解が分からない
- 失敗の可能性がある
- 評価に直結する
前に進むが、心理的に重い行動である。
忙しい一日は「安全資産」で埋まっている
忙しいと言いがちな人の一日は、
ほぼ例外なく、安全資産で埋まっている。
これは逃げではない。
極めて合理的な選択だ。
なぜなら、安全資産は
- 即時の不安を生まず
- 周囲からの評価も安定し
- 自尊心を消耗しない
一方で、リスク資産は
- 考えるだけで重く
- 失敗の可能性が常にあり
- 自己評価を揺さぶる
そのため、
忙しい人ほど、安全資産を優先する。
問題は「どちらが悪いか」ではない
ここで重要なのは、
安全資産が悪いわけではない、という点だ。
組織も個人も、
安全資産なしには回らない。
問題は、
安全資産が一日を完全に占領してしまうこと
である。
その瞬間、
人は忙しいが、前に進まない状態に入る。
なぜリスク資産は後回しにされるのか
リスク資産が後回しになる理由は明確だ。
それは、
「今やらなくても、すぐには困らない」から。
・今日やらなくても、怒られない
・来週でも、問題は表面化しない
・誰かに迷惑がかかるわけでもない
だが皮肉なことに、
リスク資産こそが、
時間が経つほど価値を生む行動でもある。
忙しさは「判断をしないための構造」になる
安全資産で一日を埋めると、
人は判断をしなくて済む。
- 何をやるかは決まっている
- 優先順位を考えなくていい
- 失敗の責任を引き受けなくていい
忙しさは、
決断を回避できる快適な状態を作る。
その結果、
リスク資産は
「また今度」「時間ができたら」に追いやられる。
3割で前に進める人は、ここが違う
3割で前に進める人は、
忙しくないわけではない。
違いは一つだけだ。
安全資産とリスク資産を、意識的に切り分けている。
・今日はリスク資産を10分だけやる
・完成度は問わない
・前に出すことだけを目的にする
この小さな設計が、
忙しさの中でも前進を生む。
第4回のまとめ
一日が前に進まない理由は、
- 時間が足りないからではない
- 忙しすぎるからでもない
安全資産が、リスク資産を飲み込んでいるからである。
忙しい状態そのものが問題なのではない。
忙しさの中に、
前に進む行動が一切含まれていないことが問題なのだ。
次回、最終回では、
この「忙しい」を手放すために、
個人は何をどう変えればいいのかをまとめる。
根性論ではなく、
今日から使える「個人の設計」として。

