前回は、AIに判断を委ねるということについて考えました。
AIは選択肢を出してくれる。
メリットとデメリットを整理してくれる。
リスクを指摘してくれる。
そして、「どれがよいか」と聞けば、推奨案まで提示してくれます。
しかし、その結果を引き受けることはありません。
最後に、
「私は、こう判断します」
と言うのは人間です。
では、AIがこれだけ多くのことをできるようになったとき、マネージャーには何が残るのでしょうか。
「答えを知っている人」だったマネージャー
これまで、マネージャーには「答えを持っていること」が求められる場面が少なくありませんでした。
部下から質問される。
問題が起きる。
何かを決めなければならない。
そんなとき、
経験がある。
知識がある。
過去の事例を知っている。
だから答えられる。
そういう人が、頼れる上司とされてきた面があります。
もちろん、今でも経験や知識は重要です。
しかし、AIは多くの「答えっぽい何か」を、マネージャーより速く出せるようになりました。
一般的な知識を調べる。
資料を整理する。
文章を作る。
選択肢を比較する。
アイデアを出す。
こうしたことについて、マネージャーがAIと速さを競う意味はあまりありません。
では、「答えを出す」役割が小さくなったとき、マネージャーの仕事も小さくなるのでしょうか。
私は、むしろ逆ではないかと思います。
何が問題なのかを決める
AIは、与えられた問いに対して非常に強力です。
しかし、その前に、
「そもそも何が問題なのか」
という問いがあります。
売上が落ちている。
社員が辞めた。
残業が増えた。
クレームが発生した。
システム導入が進まない。
これらは起きている事象です。
しかし、本当の問題がどこにあるのかは、まだ分かりません。
前回までに見てきたように、
何が起きているのか。
何が原因だと考えるのか。
何を確認すべきなのか。
そこには仮説が必要です。
AIに問いを入力する前に、
「私たちは何を問題として扱うのか」
を決める。
これは、マネージャーの重要な仕事として残ります。
AIが出したものを評価する
問題を設定してAIに相談すると、たくさんの情報が返ってきます。
そこで必要になるのが、これまで取り上げてきた基礎知識と論理思考です。
何の話をしているのか。
重要な論点が抜けていないか。
事実と解釈が混ざっていないか。
前提は正しいか。
因果関係は成立しているか。
その数字には根拠があるか。
自分たちの会社にも当てはまるのか。
AIの回答を読むだけなら、それほど難しくありません。
しかし、
AIの回答を評価するには、自分の側にも何かが必要です。
頭の中の「図書館」がなければ、何が抜けているのか分からない。
論理を追えなければ、もっともらしい説明をそのまま受け入れてしまう。
AIが高度になればなるほど、マネージャーには「読む力」ではなく「評価する力」が求められるようになります。
情報が揃うまで待つことはできない
そして、仕事ではすべての情報が揃うとは限りません。
A案にもメリットとリスクがある。
B案にもメリットとリスクがある。
AIに聞いても、
「状況によります」
という結論になることもあります。
専門家に聞いても、意見が分かれるかもしれません。
未来のことは、誰にも分かりません。
それでも組織は、どこかで進む方向を決めなければならない。
ここで必要になるのが、判断です。
AIによって情報収集や分析の精度が上がったとしても、
不確実な状態で決めなければならないことはなくなりません。
むしろ、情報や選択肢が増えることで、判断が難しくなることさえあります。
判断したら、組織を動かす
そして、マネージャーの仕事は決めるところでも終わりません。
「A案で進める」
と決めた。
では、
誰がやるのか。
いつまでにやるのか。
どこまで任せるのか。
何を確認するのか。
途中で何が起きたら見直すのか。
判断を、実際の行動に変える必要があります。
AIが優れた計画を作ってくれたとしても、組織がその通りに動くとは限りません。
人には、それぞれ事情があります。
理解の違いがあります。
経験の差があります。
納得できない人もいるでしょう。
現場で想定外のことも起きます。
マネージャーは、
判断を組織の行動に変える役割
も担っています。
そして、修正する
一度決めたことが正しいとは限りません。
むしろ、不確実な状況で判断する以上、間違えることはあります。
そこで重要になるのが、修正できることです。
実行してみる。
結果を見る。
想定と違えば、原因を考える。
必要なら判断を変える。
AIにもう一度相談してもよいでしょう。
つまり、
考える。
決める。
動かす。
見る。
修正する。
という循環を回す。
これは、この連載より前にBizMixで考えてきた「3割で前に進む組織」や「静かに修正不能になる組織」ともつながる話です。
マネージャーの判断は、一度正解を当てるためのものではありません。
組織を前に進めながら、必要なときに修正するためのものです。
AI時代のマネージャーの仕事
ここまでを整理すると、AI時代のマネージャーの仕事は、次のように見えてきます。
問う。
何が問題なのかを考え、仮説を持つ。
評価する。
AIや周囲から得た情報を、自分の知識と論理を使って検討する。
決める。
情報が完全ではなくても、どこかで判断する。
動かす。
判断を、組織の行動に変える。
修正する。
結果を見て、必要なら判断を変える。
そして、その全体を通じて、
引き受ける。
自分が行った判断について、責任を持つ。
こう考えると、AIによってマネージャーの仕事がなくなるというより、
マネージャーの仕事から「作業」が剥がれ、本来の役割が見えやすくなる
のかもしれません。
AIは、マネージャーの代わりになるのか
資料を作る。
情報をまとめる。
文章を書く。
分析する。
アイデアを出す。
これまでマネージャーが時間を使っていた仕事の一部を、AIが担えるようになっています。
それは大きな変化です。
しかし、
何を問題とするのか。
何を信じるのか。
何を選ぶのか。
誰に任せるのか。
いつ見直すのか。
そして、その結果を誰が引き受けるのか。
これらは、依然として組織の中に残ります。
むしろAIが「答えっぽい何か」を大量に作れるようになったからこそ、
それを使って組織として何をするのかを決める人
の重要性は高くなるのではないでしょうか。
AI時代にマネージャーに求められるのは、AIより多くの答えを知っていることではありません。
問い、評価し、決め、動かし、修正し、そして引き受けること。
それが、AIによって改めて見えてきたマネジメントの仕事なのかもしれません。
では、こうした力は、どのように身につければよいのでしょうか。
生成AI研修で、プロンプトの書き方や便利な使い方を学べば十分なのでしょうか。
次回、最終回は、
「AI時代に、何を教育するのか」
について考えてみたいと思います。

